名古屋市昭和区の小林さん邸

~築52年の長屋を改造~

今日は小林さんのお宅にお邪魔します。小林さんの障害は筋ジストロフィーに似た病気で歩行は難しく、上肢も腕を上げるような動作は困難です。家の中でも外でも電動車いすを使って生活されています。木造2階建ての住宅を借りて一人暮らしを始めてもうすぐ1年。自立支援事業[*1]を使って生活しています。僕が設計士として関わっているお宅です。(2002年4月の記事)

[*1]自立支援事業:地域で自立生活を送る障害を持つ人が利用できる制度。基本的に自分で介助者を見つけ、調整する。1日最高7時間の介助保障(当時)。

どん:こんにちは。まず玄関からお願いします。

玄関からスロープを見る
玄関からスロープを見る

小林さん(以下、小林):開口を広くするために扉を新しく作り自動ドア[*2]も付けました。自分で開け閉めするのは困難なので自動ドアはとても重宝しています。何度かセンサーがうまく作動せず自動ドアが開かなかったり、鍵がかからなかったりしましたが、そのたびに大工さんに直してもらっています。

[*2]自動ドア:スクーザーII(多摩岡産業株式会社)

どん:この自動ドアは基本的に鍵の施錠まではしてくれません。そこで大工さんが工夫してリモコンで鍵の施錠もできるようにしました[*3]。引き戸の自動ドアにリモコン施錠の機能がついているものはまだまだ少なく、また高価なのでこのようなシステムになりました(製品・施工込23.5万円)。 ※最近メーカーがオプションで対応したそうです(工事費別途で約40万円)。

[*3]リモコンで鍵の施錠もできるようにしました:自動車のリモコンドアロックのシステムを流用

スロープから玄関を見る
スロープから玄関を見る

小林:どうしようか悩んだのですが、予算的にきびしかったので安価なこのシステムを選びました。

どん:続いてスロープですが。

小林:電動車いすで上がるには今のところ問題ありません(8分の1勾配)。段差解消機にしようか迷ったのですが、段差解消機だとボタンを押す動作が必要になってくるので、僕にはスロープの方がよかったと思います。コスト的にもスロープの方が安いですしね。玄関に奥行きがあったのでスロープでも可能となりました。

どん:それではスロープを上がって。

小林:部屋自体は元々段差が無かったので、畳から板張りに変えたくらいです。戸は前からあった物をそのまま使っています。自分で開閉する戸にだけVレール[*4]を入れて軽く動くようにし、丸パイプ(イレクター)を加工したものを戸の下部に取り付けて、車いすのステップを引っかけて自分で開けられるようにました[*5]。

[*4]Vレール:引戸の敷居に埋め込むV型のレール
[*5]車いすのステップを引っかけて・・・
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どん:居室に関して何か問題点はありますか?

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寝室(奥右側がトイレ)

小林:建物が古くすきま風が入ってくるので冬は寒いし、夏はどこからともなく蚊が入ってきて大変ですが(笑)、古いのは承知の上で借りているので文句は言えません。しかしリフォーム前の状況を考えれば、見違えるほど綺麗になりました。壁の白いペンキはボランティアさんに塗ってもらいました。

どん:トイレはどうですか?

小林:リフォーム前はトイレに行くのにいったん外へ出て、縁側づたいにしか行けなかった[*6]ので、寝室から出入りできるようにリフォームしました。介助をしてもらうのに必要な広さはなんとか確保できています。中で車いすの転回はできませんが、入って用を足すには問題ないです。

[*6]縁側づたいにしか行けなかった
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どん:次に廊下、台所ですが。

小林:廊下と部屋の段差が約3cmあるのですが、その段差はスロープで解消しています。廊下の幅が広いので助かりました。台所は基本的に何もいじっていません。この長い廊下はギズモ(ペット:犬)の運動場になっています(笑)。

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廊下(奥左側が台所)

どん:そして廊下の突きあたりが洗面スペースと浴室ですね。

小林:リフォーム前の浴室はとても狭く車いすで使えるような状態ではなかったので、ここだけは大幅にリフォームしています。引っ越す前に住んでいた福祉ホーム(AJU自立の家サマリアハウス)の浴室を参考に大きさを決めました。広すぎず、狭すぎず、ちょうどいい大きさです。

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浴室

どん:どのように使ってますか。

小林:介助者に電動車いすからシャワーチェアへ移乗させてもらっています。浴室に段差なく入って行けるので介助者も自分も安心です。

どん:問題点はありますか?

小林:「離れ部屋」みたいな感じなので、洗面スペースも含めて冬は寒いです。先からこればっかりですが・・・(笑)。ガス管の老朽化が原因だったのですがガス漏れでガスがストップし、シャワーを浴びていたら水になってしまったことがありました。古い家はいろんなハプニングがありますが、それも楽しめなきゃ住んでられません(笑)。

どん:洗面スペースはどうですか?

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洗面スペース

小林:洗面スペースが無かったので、以前はお風呂の焚き口だったところを床上げして洗面器を付けました。洗面器の高さは試して付けたのですが、もう少し高い方が良かったかなと今は思っています。水栓は台所用のものを使っています。台所用だと洗面用の水栓より前方に蛇口が来る[*7]ので自分にとってはとても使いやすいです。水跳ねにさえ気をつければ、手を伸ばさなくても使えます。

[*7]前方に蛇口がくる
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どん:一番奥の部屋は?

小林:使えたらいいなと思っていましたが、廊下との段差が約20cmもあり段差をなくすには費用がかさむので、奥の部屋はそのままにしました。今はギズモの部屋になっています(笑)。2階は使っていません。

どん:借りるまでの話をお聞かせください。

小林:ボランティアさんが偶然見つけてくれました。大家さんも不動産屋さんも、車いすで使うことになんの抵抗もなく、改造に関しても快く承諾してくれたので、あまり苦労したという思いはありません。本当にラッキーでした。今は学生なのですが、とりあえず卒業まで住めればと思い、建物が古いことは気にしませんでした。

どん:これから一人暮らしやリフォームを考えている人にアドバイスなどありましたらお願いします。

小林:ボランティアさんや知り合いに、賃貸物件を探していることを話していたので、自分一人で探すよりは有利だったと思います。不動産屋さんいわく、古い建物の方がリフォームに関して大家さんの理解が得やすいとのことです。また昔と比べて不動産屋さんや大家さんの意識もずいぶん変わってきたのだと思います。これも多くの障害を持った人が街に住んでいったからこそ、変わったのだと思います。 すべての部分を、自分が思った通りにリフォームすることは不可能だと思います。賃貸ではなおさらです。生活で重視する箇所を見極め、手を入れなければならない箇所、入れなくてもなんとか使える箇所を選別する必要があります。そのためには障害を持った人の生活をよく理解している設計士や工務店に相談するのが良いと思います。また自分でリフォームに関する本や雑誌を読んで勉強するのも良いと思います。改造にかかった費用ですが名古屋市の住宅改造の助成金と日常生活用具を使うことで少額の自己負担で済みました。

どん:今日はどうもありがとうございました。

小林さんのお宅は築52年の3軒長屋の木造住宅で、長屋特有の縦に長い廊下が走る間取りでした。普通の木造住宅だと廊下の幅はだいたい75~80cmなのですが、この住宅は110cmもあり、直角に曲がるようなところも電動車いすで動くことができました。小林さんのお宅は田舎のおばあちゃんちのような懐かしさ漂う住まいでした。

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