名古屋市中川区のHさん邸

~コンクリート住宅に外部スロープ追加~

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全体外観写真

今回は名古屋市中川区にお住まいのHさん宅にお邪魔しました。Hさんはご両親と妹さんとの4人暮らし。建物は鉄筋コンクリート造の2階建てです。Hさんは脳性まひで家や職場では手動車いすを使い、外出される時は自動車を自分で運転されています。妹さんも障害をお持ちで基本的に生活のほとんどに介助が必要です。Hさん自身はホームヘルパーは使っていません。建物を新築された時に車いすで使えるようにと考えて建てられました。(2006年2月の記事)

どん:建物を建てたのはいつ頃ですか?

Hさん(以下、H):平成4年に新築しました。その前に住んでいたのは築50年程度の純和風の木造住宅でした。2階に自分の部屋があり、手すりを使って階段を上がっていました。しかし、脳性まひ特有の二次障害が進行したのか、年のせいなのか分かりませんが、徐々に2階に上がるのが大変になってきました。

どん:それで新築する際には車いすでも生活できるようにと考えたわけですね。

H:はい。新築した建物では、杖と車いすを併用して生活することを想定しました。玄関までの距離が取れずに、少し急なスロープ(約8分の1勾配)になってしまったのですが、向かいの駐車場から玄関までは杖で歩いていたので何も問題はありませんでした。

どん:住宅メーカー建てる商品化住宅だと基礎の形状が決まっていることが多いので[*1]、どうしても1階の床の高さを低くすることは難しいですね。

[*1]基礎の形状が決まっていることが多いので:
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H:玄関内にも少し段差(高さ13cm)があったのですが、玄関で車いすに乗り換えるのでこれも問題ありませんでした。しかし最近になって、元々悪かった股関節の痛みが強くなってきて、杖で歩くのが辛くなってきました。

どん:そして今回、建物の脇にスロープを新設した訳ですね。

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道路からスロープを見る(右側に段差解消機置場が見える)

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敷地側からスロープを見る

H:今回工事をしたのはスロープと駐車場、玄関内の段差解消です。将来を見越して改造することにしました。

どん:スロープの勾配は12分の1勾配です。手すりが少し低いですね。

H:スロープの手すりは私が車いすに乗って手が届く高さ(高さ60cm)にし、手すりを引っ張って上がれるようにしました。歩く人には低いかも知れませんが、私にとってはとても使いやすい高さです。また、将来的には段差解消機を置くことができるように考えてあります。

どん:それでは次に玄関ですが。

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玄関まわり(工事後)

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玄関まわり(工事前)

H:玄関内の段差をなくすためにコンクリートで玄関の床を上げました。その分、玄関戸も上げてあります[*2]。玄関は元々引き戸で、手すりも付けてありました。ただ、玄関の床を上げたために玄関ポーチの床の高さも上がってしまったので、両親や訪問者が使う今までのスロープに階段を2段付けて、手すりも付けて使いやすくしました。穴あきブロック(写真)は車いす転落防止と玄関内への視線を遮るために付けました。

[*2]玄関戸も上げてあります:
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玄関内(工事後)

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玄関内(工事前)

どん:それでは室内を見せて下さい。

H:室内は基本的に新築当時のままです。室内ではその当時から車いすを使って生活しています。玄関を入ってすぐにトイレと洗面があります。アコーディオンカーテンで仕切っています。妹は全介助なので、広く使いたい場合はアコーディオンカーテンを開けたまま使うこともあります。ここの空間は玄関でありトイレであり、車いす置き場であり物置でもあります。

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トイレ(アコーディオンカーテンで仕切った状態)

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トイレ内部

どん:次に浴室を見せて下さい。

H:私自身は介助は必要ありません。洗い場に丸イスを置き、まず車いすからその丸イスに移り、次に浴槽にバスボードを渡してそこに座り、浴槽内にある吸盤付きのイスに座って入浴しています。妹は介助が必要で、リフトを使って入浴します。

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浴室

どん:2階にはエレベーターで上がるのですね。

H:エレベーターは三菱製の3人乗りです。3人乗りだと手動車いすと、ひと一人が十分乗れます。屋上へもエレベーターで行けます。建てた当時はまだエレベーターを付ける家が少なかったので、荷物用の昇降機にしようかとも思ったのですが、やはり万が一の場合やメンテナンスの事を考えて住宅用のエレベーターを付けました。

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エレベーター

どん:一応建築士としてコメントすると、ホームエレベーターには規定があり、それに適応していなければなりません。2階のエレベーターを降りると、正面にまたアコーディオンカーテンで仕切られたトイレと洗面がありますね。

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2階のトイレ・洗面

H:1階とほとんど同じ配置になっています。そしてエレベーターホールの左右に私と妹の部屋があります。部屋への扉はどこも同じように広い引き戸(幅100cm)になっています。

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2階エレベーターホールから居室を見る

どん:階段があるはずですが、階段はどこにあるのですか?

H:1階の両親の部屋と2階の妹の部屋が階段で繋がっています。万が一の時も安心です。

どん:それは本当に安心ですね。現在ここをこう直したいといったところはありますか?

H:2階の各部屋にベランダがあるのですが、車いすでは出ることができません。室内側にも段差があるので[*3]、ベランダ側ににスノコを敷くだけではベランダに出られないのです。また、これは建物とは関係ないのですが、自動車から車いすの上げ下ろしが難しくなってきたので、何かいいものはないかと探しているところです。自宅では駐車場に室内用車いすを置いたまま出かけるので何とかなるのですが、出かけた先では誰かに頼まなくてはいけません。

[*3]室内側にも段差があるので:
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どん:これから家を建てる人へのアドバイスなどありましたらお願いします。

H:難しいかも知れないけど、障害的に今より少し先を見て家を建てると良いと思います。障害も歳を取るとだんだんと変わってきます。私自身、最近股関節の手術をしたのですが、今は手術後ということもあり一度座り込むと自分では立ち上るのが難しい状態です。この建物を建てるにあたって障害のある私としては、玄関の段差はなくしたいと主張したのですが、やはり家族と一緒の家であり、その家族の思いもあるので、また、当時は私もまだ元気で杖で歩けたので、まあいいかと思って妥協してしまいました。先を見越すことによって、無理をしないことで、障害が重くなるのを防ぐことができるのではないかと思います。「できることは自分でする」、「楽はしない」という考えの人には受け入れがたいかも知れませんが・・・。

どん:家族と一緒に住むというのは難しい面もあるのですね。玄関の段差は本当に悩ましい問題です。一般的に日本人はどうしても玄関に段差がほしいと思ってしまうようです。今日はどうもありがとうございました。

Hさんのお宅は建設会社の商品化住宅で、鉄筋コンクリートパネルを組み立てる構法の住宅でした。都心にある昔ながらの住宅地なので、敷地にそんなにゆとりがあるわけではなく、計画の最初からホームエレベーター設置を考えることで上下のバリアを取り除いています。となりの土地が売りに出され、その土地を購入したことで、今回スロープを新設することができました。家族と住む場合、すべてを自分専用の設計にすることは難しいので、どう折り合いを付けるかがとても重要だということが分かりました。