名古屋市瑞穂区のIさん邸
~ルームシェアで住んでます~
今回は名古屋市にお住まいのIさん宅にお邪魔しました。Iさんは3LDKの賃貸マンションを3人でルームシェア[*1]して住んでらっしゃいます。Iさんは先天性多発性関節拘縮症で、外出時とリビングなどの共用スペースは簡易電動車いすを使用、自分の部屋のみ膝歩きで生活されています。生活の全般に介助が必要です。同居人は、一人は手動車いすを使用されている方、もう一人は福祉施設で働く、いわゆる健常者の方です。名古屋市の障害者住宅改造補助金を二人分使ってリフォームしています。(2006年10月の記事)
[*1]ルームシェア:家族や兄弟など血の繋がった関係ではなく、まったくの他人と家やマンションなどを分け合って一緒に住むこと(正確にはルームシェア[roomshare]はひとつの部屋を2人以上で分け合うこと)。玄関・居間・台所・浴室・トイレは共同で使い、各部屋を個人のプライベート空間とすることが多い。アメリカなどではごく一般的に行われている。
どん:こちらに住んでどれくらいになりますか?
Iさん(以下、I):去年9月に住み始め、今月でちょうど一年になります。それまでは福祉ホームに4年間住んでいました。
どん:まずは一階のエントランスから教えて下さい。
I:一階エントランスまでのアプローチに少し段差があったのでモルタルをなで付けてスロープ状[*2]にしました。
どん:エントランス入口に開き扉がありますよね。
I:エントランスの扉は基本的にヘルパーさんに開けてもらいます。幅は私の車いすでギリギリの幅です。エレベーターも少し狭いですが(6人乗り)、私と介助者が一緒に乗ることはできます。ドアの閉まるのが早かったので、管理会社にゆっくり閉まるように設定してもらいました。ボタンの位置はちょっと高いです。
どん:このマンションは8階建てで、Iさんが住んでいるのは2階の廊下、突き当たりの部屋です。
I:一番奥の部屋なので玄関手前の廊下部分にスロープを取り付けることができました。廊下の突き当たりが玄関ドアなので、真っ直ぐ玄関に入ることができます。
どん:廊下で曲がることなく玄関に入れるのはいいですね。それでは建物内を。
I:玄関内もスロープになっていて、外から続くスロープで上がります。玄関ドアはリモコンのボタン一つでドア開け閉めとカギの施解錠ができるものを付けました。
どん:それではまずリビングを見せて下さい。
I:玄関からリビングへの扉は開き戸だったんですが、引き戸に変更[*3]してもらいました。幅も広くなったので通りやすいです。普段は開けっ放しのことが多いです。
どん:引き戸は開けっ放しにしておいても邪魔にならないのがいいですね。
I:リビングは3人で共用して使っています。リビングの大きいテーブルは手作りです。ヘルパーさん達に車いすで使いやすい高さに作ってもらいました。足も入りやすいです。
どん:リビングが広々してますね。
I:リビングが広かったことがこの物件の良かったところです。車いすの人が何人か遊びに来ても行き来が困らないほどです。ルームシェアの場合、リビングは広ければ広いほど良いと思います。
どん:それではトイレ、浴室などの水回りを見せて下さい。
I:洗面室に行くまでの廊下が狭く、出入口で90度方向転換しなければならないので、工事前は入ることさえできませんでした。開き戸を開口の広い引き戸にしたことで、車いすでもギリギリ回れるようになりました。
どん:それでは洗面室ですが。
I:洗面の下に物入が付いてる洗面台だったのですが、足が入るように、洗面の下に何もない、壁付きの洗面に変更しました。脱衣の空間を広く取るために洗濯機置場はリビングに移設しました。
どん:元々普通のマンションより洗面室が広めなのが良かったですね。洗面室内にトイレがあるので、一般的なマンションの洗面室より広いですね。
I:トイレの扉は元々あった開き戸の開口が狭かったので(幅60cm)、いっぱいまで開くように新たに開き戸を付けました(幅76cm)。高い位置に手すりが付いているのは、車いすの同居人の背がとても高いためです。私はトイレとお風呂は基本的に全介助で手すりは使いません。私がトイレを使用する時は、洗面室のカギを閉め、トイレの扉は開けたままで広く使っています。
どん:それでは浴室ですが。
I:入浴方法ですが、車いすの高さに合わせて作った組み立て式の台を持ってきて、洗い場に敷き詰めてその台に移乗します。折れ戸だったのですが撤去し、シャワーカーテンを付けています。もう一人の車いすの同居人用に台の一部はベンチがわりに置きっぱなしです。手すりはトイレと同じく、同居人が使うためのもので私は使いません。
どん:浴室はみんなで使うので、組み立て式の台にして、自分が入浴する時だけ設置するのですね。
I:もう一人の車いすの同居人にとっては、台が敷き詰めてあると使いにくいので。お互いが使いやすくするための工夫です。
どん:次にIさんの個室を見せて下さい。おお!すごいお部屋ですね。
I:プリンセスに憧れて、こういうインテリアになりました。フローリング床の上に、また床を組んで部屋全体を46cm上げて[*4]、車いすから移乗しやすくしています。一度車いすから移れば部屋の中は段差がないので生活がしやすくなっています。
どん:天井が低いのが面白いですね。低いと言っても天井高は185cmあるのでほとんどの人は天井に頭をぶつけることはありません。包まれ感がとても心地よいです。家具も低めのものしか置いていないのでミニチュアセットの中にいるようです。徹底したプリンセス仕様なのでとても楽しい空間です。
I:床を上げることで床下に大きなスペースができるので、コロ付きの台を作ってもらい、奥の方まで有効活用しています。季節物の荷物や、ふとんなども十分収納できます。
どん:これはとても広いスペースですね。これならなんでも入れられます。面白い発想ですね。建築基準法上は居室の天井高は210cm以上ないといけませんが。
I:エアコンの効きもとてもいいですよ。
どん:3人でルームシェアをされてますが、ルームシェアをするにあたって、何か心得などはありますか?
I:まず第一にお互いに干渉しないことが重要です。それと役割分担を決めることです。最初は掃除当番表を作り、掃除するところを3ヶ所に分けて3人でローテーションしていたのですが、結局自分が気になるところをその人が責任持って担当する、ということで落ち着きました。
どん:プライバシーに関しては?
I:プライバシーですが、基本的には各自一部屋がプライベート空間となっています。リフォーム前から各部屋にカギが付いていたので好都合でした。
どん:トイレや浴室はどうですか?
I:洗面、トイレ、浴室も共用で使っています。私ともう一人の車いすの同居人は障害が全く違うので、2人とも使える浴室という形を決定するのに頭を使いました。
どん:先ほどの組み立て式の台ですね。利用する時間が重なったりはしませんか?
I:1人は夜勤があったりと3人の生活リズムがバラバラなので、使用時間がかち合わずうまくいってます。
どん:共用部分に置く物の量など約束事はあるのですか?
I:これといった約束事はないのですが、気になるほどなら相手に伝えます。ただ細かいことはあまり言いません。他の2人が何でも言ってくる人たちなので自分も気になったら一言言います(笑)。冷蔵庫の中は自分が買ってきたものしか手を付けません。名前を書くほどのことではないですね。3人ともお酒が好きなので、たまに自分が買ってきたお酒がなくなっていることもありますが。
どん:光熱水費はどうしているのですか?
I:すべて三等分です。家にいる時間が違うし、厳密に誰がどれだけと計算はできないので、そこは割り切って完全に三等分にしています。私は無駄遣いが気になるので、無駄な電気は消すんですが、他の人たちは電気を付けたら付けっぱなしです・・・。
どん:電化製品や家具はどうしているのですか。
I:電化製品は3人で割り勘で購入しました。棚の収納もすべて三等分して使用しています。食器は各自持ち寄ったものを使っています。
どん:とても楽しそうな生活ですね。今日はありがとうございました。
Iさんのお宅はそらいろ探邸団初のルームシェアをしているお宅でした。一般のルームシェアと異なるのは、障害の違う二人が住んでいるということです。どちらにも住みやすいように工夫されていました。もう一人の車いすの同居人の方の話です。「ルームシェアは一人暮らしでは味わえないことがたくさんある。他の人の生活を知ることで、色んなことを学べる。相手を思う気持ちを養う勉強の場でもある。若い人にはぜひルームシェアを体験してほしい」とのことでした。ルームシェアの生活を楽しんでいる3人を見て、大切なのは相手を思いやり、信頼することではないかと感じました。また、玄関の自動ドアなど二人で共用できる福祉用具もあり、日本でもルームシェアが定着すると面白いなと思いました。