名古屋市昭和区の小島さん邸

~車いす夫婦の子育てハウス~

今回は「マッチのやっぱり子育ては大変だ!」でおなじみの昭和区の小島さん宅にお邪魔します。小島さんはご夫婦とも障害をお持ちで(脳性マヒ)、もうすぐ2歳になる歩[あゆむ]くんと家族3人で暮らしています。夫の功さんは外では電動車いす、家の中ではひざ歩きで移動されています。妻の万智さんも外では電動車いす、家の中では室内用車いすを使って移動されています。小島さんのお宅は僕が建築士として関わっています。
小島さん宅は分譲マンションなので、鉄筋コンクリートの壁を壊したりしない限り、自由にリフォームができました。設計期間は約3ヶ月、工事期間は約2ヶ月かかっています。会って打ち合わせするのはもちろんですが、今回はどちらも「電子メール」を使っていたので、細かいやりとりや打ち合わせの日取りを決めるのに電子メールを使いました。そのやりとりは結局、約80通ものメールになりました。話し合った主な内容は ●どういう生活をしていくか(家族の生活、ボランティアとの関係etc)●何を優先するか(使い勝手や予算の関係)●トイレ・浴室・キッチンの使い方 ●工事費・設計費の話 ●制度の話 などです。細かいところまで煮詰めて話し合いました。(2001年8月の記事)

‥‥そして小島さん一家がマンションに引っ越して一年と1ヶ月が過ぎ、今日のお宅訪問となりました。

どん:お邪魔します。どうもお久しぶりです。

小島功さん(以下功):どうぞ上がって下さい。

どん:玄関には自動ドアクローザー[*1]が付いていますが、使い勝手はどうですか?

[*1]自動ドアクローザー:開き戸(マンションの玄関ドアなど)を自動で開閉する装置。数社から製品が出ている。小島さん宅の場合、工事代を含めて約36万円。これはアブロイ社製。

小島万智さん(以下万智):玄関ドアを開け閉めする動作と、鍵を開け閉めする動作がスイッチを1回押すだけで自動にできてしまうので、とても楽です。

功:昔、民間のアパートで一人暮らしをしていたんですが、その頃を考えると本当に画期的なモノですね。ボランティアさんが帰る時、壁のスイッチを押して玄関を開けるのが、「歩」の仕事になっています(笑)。

どん:とても微笑ましいですね。スロープの具合はどうですか? 浴室を段差なしにするためにどうしても床の高さが上がってしまい[*2]、スロープが少し急になってしまったんですが・・・。

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玄関スロープ

[*2] 浴室を段差なしにするためにどうしても床の高さが上がってしまい・・・

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功:結構急な勾配なんですが、もう慣れました。引っ越した当初は床のコンクリートがタイヤで擦れ、粉が出て滑りやすかったのですが今は大丈夫です。電動車いすを買い換えたことで登坂力がアップしたこともありますが。

万智:玄関を入って左に曲がるので、どうしても内側の柱にタイヤをぶつけてしまいますね。段差がないのはとても良いのですが、歩がクツのまま居間に上がってしまうのが難点です(笑)。

どん:歩くんが玄関に段差のある家に行ったら逆に戸惑ったりして。まさにバリアフリーの申し子ですね。車いす置き場の広さはどうですか?

功:電動車いすが2台並べて置けるので、お互いの出入りがしやすくなりました。妻はここで室内用車いすから電動車いすに乗り換えます。以前住んでいた所では、乗り換えた後の室内用車いすが邪魔になっていたのですが、ここでは広さに余裕があるので邪魔にならずに済んでいます。

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玄関から車いす置き場を見る

どん:それでは内玄関を開けて、と。左にトイレ、右に洗面・脱衣室ですね。まずはトイレですが縦に広く取るか、横に広く取るかで悩みましたね[*3]。

功:どちらが私たち夫婦にとって広く使えるかを考えて、横に広くすることに決めましたが正解だったと思います。 万智:便器の前は広くないですが、それによって便器の前面に手すりを付けることができました[*4]。立ち上がる際にとても楽です。

[*3]縦に広く取るか、横に広く取るか・・・

[*4]便器の前面に手すりを付けることができました

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どん:色々とシミュレーションした成果が出ましたね。

功:そういえば扉の下側の明かり窓[写真]から、歩がガラスに顔を付けて覗くんです(笑)。

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洗面・脱衣室からトイレを見る(扉の上下に明かり窓が付いている)

どん:車いす用に低い位置にも付けたんですが、それは想像できませんでした(笑)。それでは次に洗面・脱衣室ですが、洗面台は車いすや事務用いすで使える高さに作ってありますが。

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洗面・脱衣室

功:無理なく使えています。脱衣スペースとしても問題ない広さです。

どん:洗面・脱衣室は扉をどうするかで色々悩みました。引き戸を付けるのが困難だったので、開き戸にするか折れ戸にするかと迷っていたところ、のれんでいいんじゃないかということに。

功:うちは常時ボランティアさんがいるので、開けっぱなしではダメだし、かといって扉を付けるほどのことではないと思い、のれんにしました。

どん:のれんはくぐるだけで、開けるという動作がいらないし、用途として問題なければこんな簡単な間仕切りはないですね(※現在はカーテンに変更)。とてもローコストですし。浴室はどうですか?

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浴室(左側に見えているのが折りたたみシャワーチェア)

功:TOTOのショールームに行って体験したときは少し狭いかなと思いましたが、実際使ってみると十分な広さです。なごや福祉用具プラザで見つけた折りたたみシャワーチェア[*5]も便利に使っています。僕は体を洗うときは折りたたんで洗い場を広くして使っています。妻はシャワーチェアとしてイスを降ろして使っています。

[*5]折りたたみシャワーチェア:相模ゴム工業のシャワーストゥールBタイプ

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万智:身長が低い私にとっては浴槽が少し深いので、浴槽の底にすのこを敷いて深さを調整したいと思っています。

どん:それはグッドアイデアですね。それではLDKの方に。

功:ここが我が家の中心です。家族みんなほとんどの時間をここで過ごしています。床材は無垢のヒノキを使っています。普通のフローリングと比べて柔らかいし暖かいので気に入ってます。

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キッチンからリビングを見る

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リビングからキッチンを見る

万智:歩も毎日ぐるぐると歩き回っています。

どん:壁にいろいろな飾りや絵が張ってあって、保育園みたいでかわいいですね。キッチンはどうですか?

万智:車いすでも使えるように高さを設定しましたが、なかなか料理をする余裕が無くて、今はボランティアさんにお願いしています。

どん:ドラム式洗濯乾燥機[*6]はどうですか?

[*6]:ドラム式洗濯乾燥機

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万智:取り出し口が低いので一般の洗濯機と比べて出し入れがとても楽です。値段はちょっと高いですが、良い買い物をしたと思います。

どん:ベランダ東側の部屋が歩くんの遊び場兼ボランティアさんの寝室で、西側の部屋が家族の寝室ですね。ベランダもデッキ材を敷いて段差をなくしています。こちらに住んで一年ちょっと経ちましたが、何か生活は変わりましたか?

功:やはり以前よりも住空間が広くなったことで、生活しやすくなりました。

万智:そうですね。広くなったことによりボランティアさんも、ある程度自分の空間を持てるようになったので、ボランティアさんにとっても活動しやすくなったのではと思っています。また以前住んでいた所は浴室とトイレが一緒の部屋だったんですが、こちらは別エリアになっているので、使い勝手がいいです。

どん:今日はどうもありがとうございました。

小島さんのお宅は分譲マンションの2階で、元々4DKタイプだった間取りを2LDK+車いす置き場にリフォームしました。マンションの構造的な問題でどうしても取れないコンクリート壁があったりと、設計段階で間取りをどうするか悩みましたが、小島さん夫婦との綿密なやりとりのおかげでうまくまとまったと思います。浴室をバリアフリー仕様にするために部屋全体を元の床の高さから約15cm上げてあります。玄関からだと20cmほど床が高くなり、長いスロープが取れない状況でこの高低差をどうするかが問題になったのですが、小島さんのお宅の場合はご夫婦とも電動車いすでしたので、スロープを少し急な勾配にして解決しました。小島邸はたくさんの人が出入りし、とてもにぎやかでいつも笑いの絶えない素敵なお宅でした。

※小島さん宅が「第1回(2001年度) ハウスアダプテーションコンクール」で佳作に選ばれました。