病院に用意してもらったT字帯と浴衣に着替え、NHKの朝ドラを見たところで看護師さんから「そろそろ行きましょう」との声がかかる。前回の病院では病室で筋肉注射を打ち(あれは痛かった~)、ストレッチャーに乗って手術室へ行ったけど、今回の病院では自分で歩いて手術室まで行く。どうも名前の確認をしてから(入院してから何度自分の名前を言っただろう…)手術の準備に取り掛かるため、ボーっとした状態で手術室に入ることは最近はあまり無いらしい。
手術待ち合わせ室に到着。先客の女性が一人。看護師さんと話をしていると、次々に手術を受ける人が入ってくる。みんな緊張の面持ち。まだ4・5歳くらいの男の子が子ども用ベッドに乗せられて入ってきた。まだこんな小さいのに…。一人またひとり、手術室担当の看護師さんに呼ばれて、名前を確認し、中に入っていく。最後に自分の名前が呼ばれた。病室の看護師さんにメガネを渡し、手術室の看護師さんに身柄の引き渡し…。メガネを外したので、ぼんやりとしか回りが見えない中、手術室へ入る。担当の先生が待っていた。ベッドに乗り、タオルを掛けられ、浴衣を脱ぎ、裸になる。ここでちょっとした問題発生。診察時の女医さんとは違う、男の麻酔科の先生から「カテーテルなしということだったんですが、うつ伏せになるとお腹を圧迫し、尿が出てしまう恐れがあるので、麻酔が効いたところでカテーテルを入れ、手術が終わり麻酔がまだ効いているうちにカテーテルを外しますので、それでご了解願えませんでしょうか?」とのこと。「えっ?話が違うじゃん」と思ったけど、こちらは今まさに“まな板の上の鯉”状態、「分かりました」としか言えなかった…。前回、麻酔から覚めた時に、カテーテルが入っているのがとても不快で、最悪だったので、それがないならまあいいや、と納得した。あとで泣くことになるんだけど…。
点滴を入れ、マスクを付け、大きく息を吸ったが最後、悔しいほど見事に意識が飛んでいる…。
「井上さ〜ん、息吸って〜」という声がもうろうとした脳に認識される。ああ、手術が終わったんだな。「自己血を全部戻したら病室に戻りますよ〜」と看護師さんの声。頭がボヤ〜っとして気持ちいい。あれ?どこからか泣き声が聞こえてくる。あっ、先に手術室に入っていった男の子が泣いてるんだ。よく頑張ったね。もう終わったよ。
まだぼんやり眠たいままストレッチャーに移され、そのまま病室に運ばれていく。エレベーター横の時計を見ると12時15分。4時間の小旅行。
看護師さんから3時まではベッドで安静にしてくださいと指示を受ける。じゃあそれまで寝ようかな、と目を閉じる。3時までは寝たり、起きたりを繰り返す。喉と尿道が少し痛い。
3時になると看護師さんから「昼食が取ってありますが食べられますか?」と。ちょうど空腹を感じていたので一応持ってきてもらうことに。前回は昼食は食べることすら頭になく、夕食も少し口を付けただけで気持ち悪くなってしまったので、ちょっと自分の空腹感が信じられない。食事を目の前にしても気持ち悪いどころか、お腹が空いたーって感じなので食べてみる。「おいしい!」。結局全部平らげてしまった。
もうベッドから出て、歩いても良いとのことで、早速トイレに。
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
やっぱり超激痛…。アスファルトで皮膚を擦りむいたときのような痛さ、その擦りむいた傷に熱いシャワーをかけた時の痛さ、傷の場所を「ぎゅっ!」っとつねられるような痛さ、そんなのがいっぺんに押し寄せてくるよう…。おしっこが出る時と出終わる時がものすごく痛い。でもおしっこの切れが悪いので、何度も出終わりの痛さを味わう。2回目のおしっこからは出すのが恐ろしく、気持ちがブレーキをかけて、したいのにおしっこがなかなか出ない。しかし点滴が入っているのでおしっこはハンパなくたまる…。
おっと。そういえば腰のこと忘れてた、ってくらい腰の痛みはほとんど感じない。「本当に手術をしたの?」って思うほど。前回は初めてだったので「これくらいの痛みならそんなにつらくはないな」と思っていたけど、今回はそれよりも遙かに楽ちん。前回は次の日に手すりを使って歩いたり、すり足で歩いたりといった具合だったけど、今回は手術当日なのにほとんど普通に歩けるくらい。医学の進歩なのか、先生の腕なのかは分からないけど、前回の腰の具合を10としたら今回は1か2くらい。前回は手術当日は病室内のトイレまでしか歩けなかったけど、今回は食堂や談話室など全然平気で行けちゃう。
夕方にカミさんが現れる。僕のハスキーボイスを聞いて物真似のリクエストをしてくる。人で遊ぶなって(笑)。夕食もおいしく頂き、もちろん完食。
ちょっとボーっとするなぁと思い、体温を測ると熱は37度くらい。することもないので、もう横になる。頭がちょっと痛かったので先生から鎮静剤(ロキソニン)をもらう。寝っ転がっていると点滴が邪魔。明日の午前中に外せるとのこと。前回は手術当日の就寝前には外れたのになぁ。夜中に2回トイレに行く。まだまだ超激痛。でも人間って痛みにも慣れてくるのか、心理的ブレーキはだいぶ弱くなってきた。
三日目(休息日)へ